ゴディバのニケ

最後の学生時代を過ごす冬がおわって
新しいお酒を覚えようとしていた
汚めの駅の隅っこには蝶番のついたドアのゴディバの店があった
俺はチョコレートなんて大嫌いだった
前を通る度にヨダレを垂らしたサル達が目にはいってくるし、なにより俺の鼻をつくいやらしい香水のような臭い
俺は臭いを愛していた
青春の時にはいつだってパンチのある人間にはワキの方や、うなじからいつだっていい臭いがしていたと思う
地元の生物研究所でたたくさんのマウスの死骸とモルモットの汚い声が響いてたのを思い出した
あぁ、嫌な気分だ
マーシャにはじめてあったのは晴れた日だった、でも太陽はすっかり傾いて海に消える寸前だったはずだ、間違いない
ひと目みた瞬間から俺の心はすっかり持ってかれちまってどうやって汚い駅の横にあるコーヒーショップにデートに誘おうかすぐに考え出すほどだった、ここだけの話になるけど俺は女ってもんを見下してたんだ、薄っぺらい顔に精一杯の虚勢をはる姿なんて醜いと思ってたよ、子供の頃はあんなに愛らしいのにね
言いたくもないけど破れたジーンズを履きながらこっちに舌なめずりする女は気持ち悪いね
上から見下してるつもりかもしれないけどそんな奴は宝箱に空いた穴みたいだ
でも、彼女は違ったんだ、俺は間違いなく素晴らしいものをみつけたよ
あぁマーシャ、君のためならあの蝶番のついたゴディバの店の前だって紳士的な態度で歩いてやるぜ
とてもいい天気だったけど、嫌にベトベトした湿度の気持ち悪い日
はやく太陽が沈んで海の方から素敵なあの国の風を運んできてくれないのか
周りにいる男ときたら女のことを天使か娼婦の2分にしかできないようなアタマの悪いやつばかり
好きなものは高いチョコレート
嫌いなものは汚い駅や死体
あの汚い駅の横にさえなければあの蝶番のドアのあるゴディバの店は完璧なのに
ある日自分のつくる世界がまるで全てだと思ってそうな男に声をかけられた
すっかり自分のことは賢いと思ってるみたいだけど子供っぽい一方的な喋り方に聞いてもないのに語ってくる哲学っぽいのに汚くて小さい自分の心の中身
私はすっかりその男に合わせて話してあげてまるで世界にいる中でいちばん素晴らしい女みたいに振舞ってあげた
あのマヌケ顔は今でも忘れられない
まるで世界で唯一理解してくれる女神をみつけたみたいにこっちをみるんだもの
たまたま友達に約束をすっぽかされたからおもしろくなっちゃってマヌケとデートの約束をしてしまった
窪んだ目が印象的なあの間抜け面
思い出しただけでも気持ち悪い、カワハギとどっちがおもしろい顔してるのかしら
夜寝る前に誰にも秘密のクスリをすこしのんで俺は日が沈む直前にあったマーシャの事を思い出していた
ちょっと赤っぽい髪に優しそうなタレ目
あぁ、この部屋の天井にマーシャが浮かび上がったらいいのに
赤っぽい髪に優しそうなタレ目
気づいた時には天井の模様が少しずつ変わってすっかり周りは虹色になったんだ
マーシャの顔に目が4つあってそれは女神のニケみたいだった毛皮をまとったニケのマーシャ
スコップで大きな穴を裏山に作っておこう
その中にはいってポルノ雑誌を読もう




飽きたからここまで

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