小便クサイ居酒屋で。
「お前らサンスケって知ってるか」
ジジイは酒臭い息で話しかけてきた
いやジジイの口が元からクサイのか
どうにしろクサイ息でジジイが話しかけてきた
「むかし、俺はサンスケやってたんだよお、サンスケ。銭湯で仕事で疲れた男どもの背中の垢擦りをするお背中流しの仕事さ。まだ年端も行かないガキがやる仕事で今で言うバイトみたいなもんだな」
こっちがなんて答えようと喋るつもりだったなこの飲んだくれジジイ
しかし仕方ない運命は会話を生んでしまうのだ
そもそもこっちも小便クサイ居酒屋にはこんな感じの酒臭いジジイと会いたくて来てるようなもんだ
小便くさい居酒屋の酒臭いジジイはこっちが首を縦に頷けるとシャックリまじりに続きを喋りだした
「サンスケはいいバイトでよ頑張って一生懸命洗ってればガキでもそこそこの金になったもんだ。
まぁガキにしてはそこそこの金って方が正しいか
人気のサンスケになると指名なんか入ったりしてよぉ
『よっ!大将、今日もお仕事お疲れ様でやんす』
なんていって他の奴らより少しいい金もらえたりしたもんよ
俺も自慢じゃないが人気のサンスケだったんぜ?」
「へぇ、今じゃ聞かない仕事だな。時代の流れと共に消えた仕事か。」
「バーカ言っちゃいけねぇよ今も実はこの仕事あるんだぜ?」
「聞いた事ないぞ銭湯にサンスケやってるガキがいるなんて」
「へへへ、ヒック。。まぁ聞けよ
サンスケの中でも俺は結構いい線いってたんだよ
話上手に仕事の愚痴聞いたりなんかしたり、まるでスナックの姉ちゃんみたいにお客の特徴や仕事メモったりしてな
今の価値でいう5千円は毎日稼いでたぜ
ガキにしちゃたいしたもんだろ?
俺は江戸一のサンスケだと勝手に思ってたのよ。ところがどっこいある時にこんな噂が流れてくる
何処かの銭湯に、一日で今の価値で言う何万円もの大金を稼ぐサンスケがいるってな!
俺は信じられなかったね、俺のスナックの姉ちゃん式の知略戦法をもってしても数千円が限界、どう頑張っても万には届かない。
ホントに信じられなかった。
だけどソイツはホントにいたんだよ。
しかもホントに数万円稼いでやがった」
「ど、どうやって稼いでるんだそんな大金?俺の仕事よりよっぽど稼いでるじゃないか」
「そのガキ前まで洗ったんだ」
「前まで?」
「そうさ。チンポ洗って抜いてやってたんだ。
そりゃ俺のスナック式戦法が通じないワケだよ。アイツは今で言うソープ式戦法でやってんだから!
俺がメモ取ってる間にアイツはチンポ手に取ってやがったんだ!」
「むちゃくちゃだな。それで数万円も稼いでたわけか。
しかしそれがサンスケの仕事が今でもあるのと何が関係あるんだ?」
「その後その手法が金のないガキ達に流行ったんだなこれが。
そしてあの子がかわいいあの子がかわいいなんてガキに抜かせてる親父たちもエスカレートよ。
そのうちホントの女を雇うようになりさらにヒトに見られたくないなんて言って個室化していったのよ。」
「ま、まさか」
「その通り、今で言うソープ式戦法と言ったがなんなら奴がソープの生みの親さ」
「すげぇ、話だ。ジーさんもやったのか?」
「バカ言うな!俺は背中の流しのライバルと思った男がチンポ洗いしてるの知ってアホらしくなってサンスケやめたんだよ。
へへ、まぁソープの誕生なんて諸説ある昔話さ。。
ただ兄ちゃん俺の話を忘れるなよ。もしこの話がオレの嘘だったとしても兄ちゃんの信じたい真実を選ぶんだぜ。」
妙に迫力のある顔で最後にコッチをキッと睨みそう告げるとジジイはそのまま机に突っ伏して寝出してした。
不思議なもんだ。ここに偶然入って聞けた誰かも知らない酒臭いジジイの話をどんな真実より俺は信じたくなってる
これが小便臭い居酒屋にいる神のように無力な人間のドラマだ
小汚いからこそ愛したくなる
俺は着てたボロジャケットをジジイにかけようとして、そっとジジイに近づいてこの小便臭い居酒屋の真実に気づく
ジジイが小便漏らしてやがった
小便臭い居酒屋の酒臭いジジイではなく
酒臭い居酒屋の小便臭いジジイだったのだ。
いつだって小汚いものは想像してたよりもっと汚い物なのである
俺はジャケットを急いで羽織って勘定してジジイのアタマを一発叩いて店から急いで出たのであった。
以上は俺の親父が30年前に東京で出会った実際にあった話である。
リアルかフィクションか。
俺のこの話が嘘か誠かかみんなの信じたい真実を選ぶのだ。
ながさわらむの酔いどれ天使になる前に
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