まもなく映画がはじまります

いつの間にか膝下まで水に浸かっている
掠れた声のような白い霧が数メートル先か数キロ先まで続いているのか俺の視界はボヤけていた
水は冷たいわけでも温かいわけでも無く俺の体の一部のようで自由に動かせるんじゃないかと思うほどだ
足しかない黒い影が遠くを遮る
俺は必死になって影を呼び止める
影は答える
「ここは白い甘美な森、狩人達は全能を求め公平の矢を射る、ならず者達は一度は裁かれる為に来る
青い情熱がこの森へのチケットとなり、お前の中の怠惰や快楽がお前を黒くする、狩人をみたか?俺は赤く燃えるこのゲームからもう降りる」
俺は聞く
「いい人生を生きたか?映画になるような美しい人生を」
影はいつの間にか消えていた
俺は振り返る
前触れなく白い霧は晴れで空爆を受けたような黄色だけが広がる
足元の水は突然重みを増す、深い泥沼
目をつぶり俺は沼に沈んだ
幼い頃の自分が沼の中でこちらをみている
「巧妙なタイプの洗脳だ、両親や君を愛するもの達による」
「なぜ?」
「君は死を恐れる」
「死は誰だって怖いものだろう」
「死は友達だ必ず訪れる、誰もが青春発墓場行きのバスの中」
「暗い穴?」
「飛び込めばいい」
「なんのために?」
「飛び込む理由?なんだっていいんじゃないか」
「好奇心は君を生かし殺す」
「お前は死をともとよぶ」
「それなのに逃げてばっかりじゃないか」
おれの体は泡になる
甘美な森にはもう行けない
小さな庭の中で永遠に眠る

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ながさわらむの酔いどれ天使になる前に

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